先月から音楽関連の本ばかり読んでいて、すっかり音楽本売り場に行く癖がついている。買ったまま読みかけの本が何冊もある状態を気にしつつ「コテコテ・サウンド・マシーン」は書店で見つけて即座に購入した。
「YMOのONGAKU」 は上手いこと対談と、著者の文章がミックスされていてその割合がおよそ対談7:文章3だったのに対して、「コテコテ・サウンド・マシーン」は対談がおまけのように三本ついているものの、基本的には単独の著者のディスクレビュー(100枚分に加えて、それぞれに関係のある盤を2枚ずつ紹介しているので実質300枚くらい)がメインになっている。比率は文章9:対談1くらい。
コテコテ・サウンド・マシーン (SPACE SHOWER BOOKS)
- 作者: 原田和典
- 出版社/メーカー: スペースシャワーネットワーク
- 発売日: 2019/03/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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で、このタイトルにある「コテコテ」という言葉は、知らない人には何のことなのかはっきりしない概念かもしれないが、そしてこのコロコロコミックや「ベン・ハー」のような大仰かつコミカルなタイトル・ロゴに恐れをなす向きもあるかもしれないが、そもそも本書は前作「元祖コテコテ・デラックス」の20年ぶりの続編のようなもので……、と書くのがもどかしいのでアマゾンの内容紹介を読んでいただきたい。
コテコテ仕掛人が、再び時代を震撼させる!
ジャズ〜ソウル〜ファンク〜ブルース〜邦楽を縦断する音楽ジャーナリスト、原田和典
“Grooveの真髄"に迫る入魂の最新書き下ろしソロ著作
1995年に季刊ジャズ批評別冊として発売された『コテコテ・デラックス〜GROOVE, FUNK & SOUL』は従来の音楽ファンから殆ど注目されていなかったオルガン・ジャズ、ソウル・ジャズ、ホンカーなどの作品を中心に紹介した画期的なガイドブックとして大好評を得た。そして99年には改訂版『元祖コテコテ・デラックス〜GROOVE, FUNK & SOUL』が発売され、ヒップホップやクラブミュージックのファンを含む幅広い層に支持されてきた。
新刊『コテコテ・サウンド・マシーン』は、主に1950〜60年代のレコード約500枚を短いコメントと共に紹介した『デラックス』とは異なり、2018年リリースまでの傑作100枚を長文で丁寧にガイド。さらに約200枚の関連盤も取りあげて、各アーティストの作品と魅力を広く深く紹介している。また全頁カラーで紹介、曲目、録音データ、プロデューサー名も可能な限り掲載し、資料性を高めた。
この内容紹介だけを読むと、生真面目な音楽評論家が堅苦しい文章を書いているっぽく見られるかもしれない。しかし「違います!基本的に音楽評論というよりユーモア・エッセー色の方が強いです!」と力説したくなるほど、何で出版社の人はそっちを強調しないのかが不思議になるほど、文章の笑い成分が濃い本なので、音楽にさほど興味を持っていない人にもお勧めしたい。
元祖コテコテ・デラックス―Groove,Funk&Soul (ジャズ批評ブックス)
- 作者: 原田和典
- 出版社/メーカー: 松坂
- 発売日: 1999/10
- メディア: ペーパーバック
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(ちなみにこれ↑は前作)
音楽そのもの抜きで、ある曲なりアルバムなりミュージシャンなりの良さを文章で伝えるというのは下手をすると単なるお世辞になるだけで難しいもの、しかし本書は詳細なデータや小ネタ(直接、そのミュージシャンや共演者から聞いたという話も多い)、それに独特の誇張や、サービス精神や、音楽体験を丁寧に書くことで、ひとつの小さくて大きな、唯一無二の世界を築き上げている……、と言っても少しも伝わらないと思うので誇張の例を挙げるとこういう感じである。
ジミー・スミスと並んで、全米に一億人はいそうな名前だ。しかしこんなに美しく濃厚なサックス・プレイを繰り広げるチャールズ・ウィリアムス氏は彼しかいない。
これこそファンキー・ギターの頂点、ジャズとファンクが交わってグツグツと煮立っている。「ライトハウス」につめかけた観客はあまりの濃度に次から次へと卒倒、失禁したに違いない。
これは本当にごく一部なので、実にもどかしい。どちらかといえば量的に小ネタがどっさりという種類の本なので、見開きにひとつずつある575のタイトルを並べた方がわかりやすいかもしれない。
湧きあがる
魂の歌
ここにあり
涼しい音
なのに熱いよ
フレーズが
一部始終
はじけまくりの
リズムかな
4本の
弦で効果は
5万本
イヤッホー!
ダンス天国
たのしいな
などなど、「見たまんま」であったり「キャッチコピー」風であったり「誇張」であったりするのだが、これが100枚分ギッチリある(個人的に最も好きなのは「デパートの下着売り場のBGMか」)。その上、各偶数ページの柱の部分には「~度」という★5つで満点の評価がついている(しかも3種類)。
これもそれぞれ異なっていて、
一筋縄のファンキーではない度
ビートメイカーにも推薦度
作品数の多さの割には謎度
ジャズ奏者としての魅力を大いに発揮度
グギャンガギョン度
鐘を鳴らすのは俺度
チュパチュパ度
時おりスカスカになるのもまたよし度
バンドも観客も異次元に飛ぶ度
むせかえるほどのディープさ度
ロマンティックな映画主題歌をファンキーに度
個性と親しみやすさのバランス度
などなど、300パターンもあるので引用しきれない。P.142のようにすかしボケ的な、割と投げちゃってる度満点の、まさに「時おりスカスカになるのもまたよし度 ★★★★★」と言いたくなるような大らかさもあるのだ。サービス精神が旺盛すぎて、そういう点でもまさにコテコテの、ギトギトの、てんこ盛りである。
ただ、やはりいきなりこの本を買って誰もがいきなり楽しめるかというとやや不安な気持ちもなくはない。そこがYMOとは異なるので、せめて最初に紹介してあるルイ・ジョーダンなら「ラン・ジョー」「チュー・チュー・チ・ブギ」くらいは聴いておくことをお勧めする。
本書の最初の一枚がこの人の「サカツミ」なのである。「大きな目玉をギョロギョロさせてユーモラスな歌を歌い、抜群のテクニックでサックスを鳴らす姿」「当時Youtubeがあったら何兆くらいビューが稼げたか」と評されている姿を少し想像してみてほしい。