めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

「YMOのONGAKU」藤井丈司

音楽について文章を書くのは難しいし、野暮ったいし、読むのも面倒、なぜなら音楽そのものを聴いている方が何十倍も何百倍も有意義な時間になるから。

というのが音楽関係の本について、常に伴うジレンマではないかと思う。しかしもちろん、読んで面白くて有益で、人に勧めたくなる本も少数ながらある。

 

 

発売前にもう増刷が決定していたという本書は、YMOを知っている世代にも知らない世代にも全力でお勧めしたいほどスリリングで、魅力を語りつくせないほど奥深い良書だった。

 

祝YMO結成40周年!
レコーディング・スタッフとして『散開』までを見届けた著者が、
豪華ゲストとともに解き明かすテクノ・ポップの魔法! 

78年のデビュー作『イエロー・マジック・オーケストラ』に始まり、
『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』『BGM』『テクノデリック』『浮気なぼくら』、
そして93年の『テクノドン』まで、YMOが発表した6枚のスタジオ・アルバムは、
その後の世界のポップスを変えました。
本書はそのレコーディング・プロセスに深く分け入り、
細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏というメンバー3人の共同作業から生まれた
YMOのいまなお新しい音楽性の秘密を探っていきます。

 

YMOのONGAKU

YMOのONGAKU

 

 

トラックシートを分析するトークイベントが元になっているので、話し言葉の持つ偶然性やハプニング性、臨場感がそのまま残っている。このあたりが他のYMO関連本にないスリルを生んでいて、もうあっちこっちから引用したくてたまらないのだが、たとえばこういう箇所。

 

松武:ところで、トラックシートを見ててあらためて思い出したんだけど、このAメロのメロディの音はⅢCで作ったんだ!今まで、教授が弾いたんだと思ってた!

藤井:え、なんで分かったんですか?

松武:今、じっくり聞いてみて、メロディにビブラートがかかるタイミングと深さが、毎回同じなんだよね。いくら教授が弾いても、まったく同じにはならないでしょ。それで、そうだ、ディレイ・ビブラートを設定したってことを思い出したんだよ!

藤井:三九年ぶりに?

松武:そう!

藤井:おお! 当時の音作りがよみがえったんですね! 対談して良かった(笑)!

松武:そうだったんだ……(客席から拍手が起こる)。

 

これが何と、AメロはAメロでもかの有名な「ライディーン」の話である。

 


Rydeen - YMO

 

ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー(2018年リマスタリング)

ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー(2018年リマスタリング)

 

 

 

飯尾:めちゃくちゃ大変だったよ。それと、トラック9の逆さエコーを書き出すとか。

藤井:この「逆さエコーBの音」と書いてあるトラック?

飯尾:そう。僕はその逆さエコーでスネアに加えたカキンって音を一度消しちゃったんだよ、ミスで。(略)幸宏さんに渡すカセット・テープのインデックスに「カキンの音を消してしまってごめんなさい」って書いたことを、いま思い出したよ!

藤井:いまですか!

飯尾:それで次の日に松武さんにお願いして、もう一度同じ音をLMD-649から出してもらって録音し直したんだった。いま思い出しても胃が痛くなる(笑)。

藤井:まあ、もう四〇年近くも前のことじゃないか(笑)。

 

こちらは「テクノデリック」冒頭の「ジャム」に関するくだりで、読んでいるほうまでハラハラするような臨場感がある。

 


Pure Jam - YMO

 

テクノデリック

テクノデリック

 

 

話している二人がお互いにツッコミを入れたり、入れられたりの連続で、そういう関係がベースにあることによって、双方の持つ経験や知識や考えがうまく補完されていく。

YMOというとそのコンセプトに関する背景や成り立ち、機材の進化、三人の人間関係についても触れなければならない。その辺りは地の文で書かれていて、ちょっと感動的な箇所もある(P.180の後半部分とか)。

それに加えて、裏話的なエピソードもちょいちょい出てくる。とりわけP.68の「藤井、今日はなんの映画見たい?」や、P.266の「第二のおにぎり事件」などは全く知らなかった。

最終的にはエピローグで出てくる「声がYMO」という観点(P.274)もシンプルで、かつ新鮮で、本質的な見方だと思う。

 

 

 個人的には「ナイス・エイジ」や「シャドーズ・オン・ザ・グラウンド」など、本書では触れられなかった(収録されたアルバムがこの本の対象外になるため)曲も多々あるので、増補改訂版か、続巻を気長に待ちたい。