西村寿行は70~80年代に活躍した人気作家なので、今やほとんど新刊書店では見かけない存在になってしまった。「寿行」という名前の読み方すら分からない、知らない、という人が多いのではないだろうか(「じゅこう」と読む)。
北上次郎選「昭和エンターテインメント叢書」(5)捜神鬼 (小学館文庫)
- 作者: 西村寿行,北上次郎
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/07/06
- メディア: 文庫
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本書は北上次郎がセレクトした「昭和エンターテインメント叢書」というシリーズの一冊で、動物を主題にした短編が三作収録されている。
夜の国道で道路の中央に蹲っている少年がいた。彼は、一緒に暮らしていた老人が死ぬ間際に残した言葉を守り、飼っていた蟹が海岸で産卵しようと移動するのを、命がけで守ろうとしていたのだった。それを知ったドライバーたちは、最後まで少年が見守れるように動いた。しかし、蟹と少年にはさまざまな難敵が襲いかかってくる(「妖獣鬼」)。
抜き差しがたい心情が膨れあがっての、生き物たちとの深い交わりを描きながら、「人間と動物はついにわかりあえないという断念を基調としている」(北上次郎)という、人間の孤独や哀しみの深奥に迫った、傑作動物小説集。
解説にある「実はデビュー作以来、動物小説を書き続けている」という指摘にはさほど驚けなかった(中学の頃に初めて読んだ西村寿行の小説が、犬と猟師の出てくる「風は凄愴」だったので)。
最初の「海獣鬼」は「なめそ」という怪魚と年老いた漁師の話。
「なめそ」の描写が可愛いので、頭の中のイメージがイルカのようなシャチのような、「シン・ゴジラ」の第二形態(蒲田くん)のようなイメージになってしまう。
シン・ゴジラ 第2形態 もちっと腕枕クッション 全長約43cm
- 出版社/メーカー: グレイ・パーカー・サービス
- 発売日: 2017/03/18
- メディア: おもちゃ&ホビー
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次の「妖獣鬼」は蟹が産卵のために海まで移動する道のりを見守る、少年と犬の話。
トラックを走らせている運転手が、道にうずくまっている少年の姿を見つけて怒る、という発端なのだが、この辺りの展開がいかにも昭和という雰囲気である。全体に短いロード・ムービー風の短編でアクションあり、感動あり、動物同士のバトルありで飽きさせない。
最後の「聖獣鬼」は、ある碌でもない女が、ある事情から死を避けられなくなる。いよいよもう死ぬ、という段階になってから動物とあれこれあるのだが、ちょっと予測できないような展開になるので何とも整理がつかない。タイトルにあるような「聖獣」と解釈するべきなのかどうか。
「ヤフー知恵袋」では、この作品を「不滅の名作」の例として挙げている人がいた。
私の中の不滅の作品をあげるとしたら、私は小説では、西村寿行の捜神鬼の中の「聖獣鬼」と言う短編です。
西村寿行の動物小説は例外無く好きですが、この作品は、私の生涯の指針、道標です。
三作ともそれなりに興味深く読んだものの、やや物足りなかった。西村寿行はなかなか大声で好きだとは言いにくい作家だが、動物小説を中心に人気が復活しても不思議ではない。
デビュー前に書いたという「老人と狩りをしない猟犬物語」や「狼のユーコン河」など、ちょっと読んでみたくなる作品が幾つかある。