はてなハイクに「小説の始まり方」というお題があって、要は自分の好みの書き出しを挙げるだけである。
調べてみたらかれこれ8~10年ほど前に自分も幾つか挙げていたので、そのままコピペしてみたい。
夏の王国は終った。卵の中の生活も終った。
太陽は古いパン屑を撒き散らしながら腐っていく。
倉橋由美子「腐敗」
パルタイ・紅葉狩り 倉橋由美子短篇小説集 (講談社文芸文庫)
- 作者: 倉橋由美子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/11/08
- メディア: 文庫
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この世の終わりという観念には人を妙に浮かれた気分にする性質がある。昔、前世紀の七〇年代に、その世紀の終わりとともに大破局がやってきて人間もそれでおしまいになるという予言が話題になったことがあった。その予言を書いた本がよく売れたのは人々がこの世の終わりを想像することに興じたからだった。興じ方がいささか騒々しくなったところで今の世紀に入り、それから十年経ってまだ世界も人間も終わりにならない。それをどうしてくれるつもりかと訊こうとした時には、予言者も本を出した人間もとっくの昔にこの世から退場していた。
倉橋由美子「シュンポシオン」
数日前、雨が降った。茸を取りに山へ行かなければならない。首が来るので家で待たなければならない。乱れた白髪のような秋の長雨は終わった。灌木が疎らになった。空気が薄くて淋しい。空の天井も抜けたような秋だ。近くの雑木の間を散歩したけれど、茸は生えていない。落葉樹もまだ錦をまとわず、林の中に金管楽器の燦然と輝く秋の音楽を聴くこともない。ただ、どこかで悲しんでいる犬の声がする。
倉橋由美子「ポポイ」
戦時中、僕の家は阪神間の芦屋で焼けた。昭和二十年の六月、暑い日の正午頃の空襲だった。
僕はその時中学三年だった。工場動員で毎日神戸の造船所に通って特殊潜航艇を造っていた。腹をへらし、栄養失調になりかけ、痩せこけてとげとげしい目付きをした、汚ならしい感じの少年だった。僕だけでなく、僕たちみんながそうだった。
小松左京「くだんのはは」
水のように澄んだ空が星を漬し、星を現像していた。しばらくすると夜が来た。サハラ砂漠は月光を浴びて砂丘へとひろがっていた。
サン=テグジュぺリ「南方郵便機」
- 作者: サン=テグジュペリ,Antoine de Saint‐Exup´ery,山崎庸一郎
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2001/08
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