めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

「ゴッドファーザー(下)」マリオ・プーヅォ

・「ゴッドファーザー」の下巻に進むと、映画ではごく表面だけが描かれていた流れの水面下、さらに深層で何が起こっていたかまで細かく書かれている。

ソニーの死は、遠回りに葬儀屋の視点から話が始まる。上巻冒頭のあの人物が再び登場、しかも子を思う親心という点では同じ、頼む側と頼まれる側という点では対になっている。

次はマフィアの親分が一堂に会する場での演説、しかしトムにも見えない何らかの意図があるようなことを匂わせる。いかにしてマイケルをアメリカに呼び戻すかの策を練るのだが、判事や警察をどの程度まで抱き込めるのか、見込みが立たない。

身代わりになって自供する人物が見つかって、裏取引をする。その後はソニーの愛人の話題になって、ここは映画にはなかったパートになる。

 

 

・「ゴッドファーザー」下巻の、ソニーの愛人が手術してどうこうのあたりは、さすがに通俗的興味で引っ張っているように感じられた。要するにエロと暴力で引っ張っているのかと……。

しかし、冷静によく考えると、この人物の視点を通じて、長男と次男と三男の関係を再整理しているパートなので、この部分があることで物語を立体的に仕切り直している。

一見、軽く見えるが、複雑な人間関係のハブになっている重要人物なのだ。この人物のおかげで長男は粗暴なだけではなく、次男も臆病なだけでない人間なのだと分かり、やがて次男の関わるカジノは三男の運命にも大きな影を落とすことになる。

でもって、その後はマイケルのパートになって、こっちはシチリアに潜伏中なのに若い女の子に一目ぼれ、という展開である。これも不必要に見えなくはないが、女の子がソニーの愛人とうまく対になっているので、合間にマフィアの誕生の話や、マイケルが次第に凄みを帯びてくる話題が絡む。ここまでで下巻の半分くらい。

 

・「ゴッドファーザー」の下巻は歌手の話が長いよな~と思って読んでいたが、ここはアメリカ人にとっては露骨に「歌手=フランク・シナトラ」とモデルがわかるらしいので、そのあたりはみな裏話的な、ゴシップとして楽しめるのだろう。

 

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・下巻の本分がおよそ420ページほどのうち、350ページくらいになってようやくドンが亡くなって報復モードに入るので、あまりにもそこまでが長い。文庫の裏表紙のあらすじでは「すぐに報復開始ー!」的な書かれ方なので、かれこれ8割以上も読んでからそこに辿りつくことになるのであった。

 

・やっと「ゴッドファーザー」下巻を読み終える。上下で850ページほどあるので、一日100ページほど読める日もあれば20~50ページくらいの日もありで、10日ほどかかった。

 

・映画のラストでドアが閉まる場面、あれは完璧な終わり方と思える名場面だが、小説ではその後にもエピローグ的な章があった。家を出たケイとトムの会話になって、結局はマイケルがドンを継いだように、ケイも同様に義母のような存在になるという形で、二つの夫婦関係を並行させる。この方がまとまりとしては良い。

 

 

・いったんマイケルの顔半分が悪相になり、それを手術で元に戻すというのは「外見は元に戻ったものの、その間に内面は大きく変わっている」ことを示唆している。「鬼滅の刃」で仮面をかぶった人物があちこちに出てくるのに比べると、けっこう高度な技ではないだろうか。全体的に対比や、時間的なずれを含む構成が多かった。