めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

「世界の凋落を見つめて クロニクル2011-2020」四方田犬彦

四方田犬彦は一般的にさほど知られていない書き手かもしれないが、かれこれ40年くらい本を出している。ジャンルとしては映画論、漫画論、時評やテーマ別の評論、コラム集など。本書は「週刊金曜日」に書かれた10年分の時評をまとめたもの。集英社新書から出たばかりの本なので、入手しやすいと思う。

で、この世界中の様々な話題のこの10年分、となるとアレやコレの件についてどうなんだろうと興味が湧いてくるかもしれないが、著者はありきたりの正義や建前的な意見を酷く嫌っていて、注意深くそうした話題を避けている。

 

 

津波と原発について「大新聞は美談だらけだ。小説家は、今こそ自分の道徳意識を発揮できるといわんばかりに、書きまくっている。彼らは文学の無力に苦しんでいるのか、それとも格好のネタができたと、はしゃぎまくっているのか。わたしには区別できない。」と、こう書ける人はなかなかいない。

しかし時評ばかりをまとめて読んでいると、こちらの感覚が少しおかしくなってきて、物事に賛成か反対か、多数派か少数派か、といった区分がどうでもよくなってくる。

たまにそういう〇か×かという単純さから離れた、ナンセンスな笑い話みたいな回があると、新鮮な目で世の中が捉え直せるような気になる。

たとえば「サーカスに行ったことがない」は、これまでに著者が会ったことのある三人のノーベル文学賞の受賞者について順番に触れていて、三人目がひどい癇癪持ちで……、という話。これはたった3ページながら、ちょっとした掌編を読んだような読後感だった。