めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

「女王の肖像 切手蒐集の秘かな愉しみ」四方田犬彦

切手蒐集に関するエッセーである。今どき切手集めが趣味の人など見たことも聞いたこともないが、かつては日本に「趣味=切手集め」という常識が存在していたのだ。

実は私も「ドラえもん」に影響を受けて急に切手を集めたくなった時期があった。その熱は半年も続かずに途切れてしまったものの、なぜか切手のカタログは気になっていた。

世界各国の切手に関する知識や裏話には、ほとんど映画や文学、政治や歴史に関する知識の裏付けがあるので、いかにも博覧強記の著者にふさわしい趣味として納得できる。で、最後にキューバで手に入れた切手に関する謎が残るのもいい感じ。

 

 

ただちょっと気になったのは「切手集め」という趣味が将来的には先細りになるだろうという見解が終章にある点で、誰も使用しないのに記念切手が多く発行される現状を嘆いている。

ところが私の場合、仕事で週に2~6通くらいは封書を出すし、趣味でも多い時には月に数十通ほど郵便物を送るので、切手を買う量が減るとは思えない。その上、近頃は使うのがもったいないような、美麗な切手がポンポン出てくる。

つい先日も日本の伝統・文化シリーズ第四集「きもの」に驚いたばかりだ。この切手の金色の使い方の贅沢さ加減は、おそらく空前絶後ではないだろうか。84円のシートも63円のシートも美・美・美の嵐が吹き荒れている。「金に糸目はつけるめえ!」という日本郵便株式会社上層部の叫びが聞こえてくるほどだ。

もう一つ、なぜかどの章も冒頭の一文だけ「ひとマス空ける」というルールに従っていない。最初は落丁かと思ったものの、どの章も同じで、先々の段落はきちんと冒頭をひとマス空けている。これはどういう意図によるものなのか、それとも平凡なミスなのか、よくわからない。