私は何かをコレクションするという資質や才能には恵まれていないらしい。しかし、コレクター心理や生態を描くたぐいの読み物は割と好きである。
本書は様々なコレクションに手を出して、その種目も量もうんと多い人の本なので、話が広がり、エスカレートしてゆく前半の流れを追うだけでも楽しい。
で、第四章の、ちょうど本の中間くらいに到って、
もう何も欲しくない。ぼくの心から物欲は消え失せた。あれほど自分を狂わせていた蒐集欲が消えた。そんな気持ちだった。(P.184)
という心境になってしまう。まるで悟りを啓いたお坊さんである。
その後は、実際に購入をせず、手元にも物を置かない「エアコレクター」という境地にまで至る。「集める」という一連の行為が楽しいのだから、極端な話「白いトレーディングカード」があったとしてもそれを集めるだろう、と宣言するくだりは感動的ですらあった(P.197)。これはもしかして「つもり貯金」のようなものかなとも同時に考えたが……。
読んでいるうちに、この人が何かに夢中になる時の理由のなさと、飽きる時の根拠のなさに対して、共感のような反感のような、あるいは反省にも似た気持ちが湧いてくる。
自分も小学生の頃に、ビックリマンチョコのリアルな絵を描いたシールを集めていた時期があったし、それをちょっとした弾みで友達にあげてしまったことがある。
あれはいったい何だったんだろうと、時々は思い返すという程度の思い出なのだが、さして根拠や理由のない「熱狂と飽き」、それこそが自分というものの正体なのかもしれない。
文庫版には巻末に伊集院光との対談もあって「集まっちゃうつまらなさ」「世界を切る、切り方の巧さ」といった視点など、最後の最後まで中身の詰まった本だった。