平凡社の東洋文庫の記念すべき700巻目の本。「東洋文庫ガイドブック」で知り、面白そうだったので読んでみた。
内容は本物の「西遊記」のある部分に挿入されるべき枝葉のエピソードで、今風に考えるとコミケで売られているような、キャラクター拝借小説といったところ。
近現代の小説に慣れている目で読むと、受け止めかねる部分や意味不明の部分もあるが、全体としてのびのびした気分にさせてくれる。
日頃のちまちま、こせこせした気分を一掃してくれるというか。
「我がはいはその当時虫のいどころが悪く、あっというまに手が動き、一刀のもとにバッサリ切り捨て、君でも臣でも大人でも子供でも、数千人をばみな首無し屍体にしてしまった。そのときはいや面白かったぞ。」
といったセリフがぽんぽん出てくる。
髪の毛から作られた分身のミニ悟空が他のミニ悟空を「友達」と言ったり、人間をたたきつぶすことを「肉のせんべいにする」と言ったり、微妙にユーモアを感じる。
また、作者が本文の上の方からコメントをつけたり、一回分が終るごとに「評」がついていたりで、他に比べるもののないヘンテコな内容でヘンテコな読書体験だった。作者はこれを書いた当時20歳だった……、というのも、本当か嘘かわからないようだし、ちょっと幻想文学、ナンセンス小説的なものから遠ざかっていたが、その手の話こそ自分が心底好きな、読むべき本で、大げさに言うなら「これが私の生きる道」なのだと再確認した。訳には微妙に関西弁が入っている。