「ぼくの伯父さんの東京案内」はタイトルとは異なり、東京の名所案内の本ではない(一応、渋谷や銀座に関する話題も少し出てくる)。
では何かというと、東京に生きる「伯父さん」の生活と意見を控え目に綴った文章がページの下半分に配置され、上半分は東京の写真からなるという本である。
つまり架空の人物を描いたフィクションのようであり、随想のようでもあり、写真集でもあり、結局はそのいずれにも属さないという独特のスタイルを持っている。
また「伯父さん」という表記から推測されるように、ジャック・タチや北杜夫、あるいは伊丹十三のような、洒落た雰囲気の「伯父さん」系の本でもある。
まとめて言うと、沼田元氣その人の理想と思想を「伯父さん」を眺める甥っ子らしき少年の眼を通して描いた、沼田元氣の代表的著作と言っていいような一冊である。
さて、ぼくの伯父さんなる人物はいかなる人物であるか。伯父さんは、自らの趣味嗜好によってその人生がさゝえられている。だから、その嗜好、つまりは、伯父さんの好きなコトやモノ、もしくは「お気に入り」というのを覗いてみると、ちょっとはどんな人物か解るかもしれない。そうして、その実、伯父さんとしても、いつもそのことについて考えているのである。
全体にレトロ調の文章だが、単にそれっぽいスタイルの模倣というだけのものではなく、心の底からこの種の文体に惚れ抜いて出来上がったような文体なので、精神の深いところから発せられたような本物の響きがある。そして、同時に軽妙さも。
確かに伯父さんはひとすじなわではいかない、がんこ者で、わがままで自分勝手でマイペース、そのくせ寂しがりやでゴウマンで自己愛が強く、せつなさに服を着せて歩かせた様な、こわれかけた玩具みたいな存在。そうしてあくまでマイペースである。それは、ある意味で人が変な奴だナと笑っても、へっちゃらである。これは現代において案外とムツカシイことで、何でも人に合わせたり、同じことをよしとしないと、いじめに合ったりするからだ。
アマゾンの写真では分からないが、ページの端が丸くカットされていて、紙の質が良い。全体に作りが丁寧な、隅々にまで愛情の行き渡った本なので、いつまでも手許に置いておきたくなる(実際に置いている)。