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読んだ本の感想やメモなど

「ルーフォック・オルメスの冒険」カミ

シャーロック・ホームズのパロディということに一応なってはいるものの、形式が小説ではなくて戯曲で、内容はよく言えば軽妙、悪く言えば小学生が考えたようなトリックが満載なので、かなり評価が分かれそうな本である。

 

ルーフォック・オルメスの冒険 (創元推理文庫)

ルーフォック・オルメスの冒険 (創元推理文庫)

 

 

オルメスはホームズのフランス語読み。ルーフォックは「頭のおかしい」とか「いかれた」の意味。ホームズのパロディと言うには、ぶっ飛びすぎの、とんでもユーモア・ミステリ・コント集。34編の掌編を集めたもの。たとえば、寝ている間に自分の骸骨を盗まれてしまった男の話、とか、巨大なインク壺のなかに閉じ込められた男たちの話とか……「アホカ! 」というような掌編ばかり。ミステリ・マニアとしては、読んでおくべき奇書の一冊。

 

名探偵ルーフォック・オルメス氏。オルメスとはホームズのフランス風の読み方。シャーロックならぬルーフォックは「ちょっといかれた」を意味する。首つり自殺をして死体がぶらさがっているのに、別の場所で生きている男の謎、寝ている間に自分の骸骨を盗まれたと訴える男の謎等、氏のもとに持ち込まれるのは驚くべき謎ばかり。フランス式ホームズ・パロディ短篇集。必読の一冊。

 

個人的には花丸を付けたくなるような内容で、そもそもこの種の本を紹介したくてこのブログを始めたようなものだ。

思えば「新青年」のアンソロジーか何かで「○○○○に閉じ込められて小説を執筆する人質(書けないと○○○の水位が上がるので必死で書く)」という変なイメージを読んで以来の再会である。

本書はオルメス氏の名推理が34編まとまっているいわば「全集」で、一話が10ページに満たない短さである。冒頭の謎が説明され終わると即、オルメス氏の名推理が働き、犯人と真相がわかる、といった構成になっている。

といっても普通のミステリではなくて、頭の中にカラフルな絵が浮かぶようなナンセンスな話がほとんどである。解説では落語との近接性が述べられているが、私は杉浦茂から赤塚不二夫、佐々木マキ、唐沢なをき、本秀康、へと至る系列の漫画家の絵柄を想起しつつ読んだ。

ちょっと並べてみると、以下のような感じである。

 

杉浦茂マンガ館 (第2巻)

杉浦茂マンガ館 (第2巻)

 
スペクテイター〈38号〉 赤塚不二夫

スペクテイター〈38号〉 赤塚不二夫

 
うみべのまち 佐々木マキのマンガ1967-81

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へろへろおじさん (こどものとも絵本)

へろへろおじさん (こどものとも絵本)

 
佐々木マキ: アナーキーなナンセンス詩人 (らんぷの本)

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カスミ伝(全) (ビームコミックス文庫)

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レコスケくん 20th Anniversary Edition

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アーノルド (河出文庫 も 6-1)

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本秀康の描く4ページ―4ページ漫画大全1988~2004

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三銃士の息子 〔ハヤカワ・ミステリ1882〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

三銃士の息子 〔ハヤカワ・ミステリ1882〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 

 ↑こういう絵のような「世界」の出来事なので、リアリティがどうとか、トリックが成立するかどうか云々というレベルの話ではない。もっとシンプルにいうならツッコミを入れたら負け、という世界である。

ひとつ例を挙げると、運河の底を潜水服を着た探偵が自転車に乗って犯人を追いかけたりする。しかも途中でスポークがダメになり、そこで大蛸を捕まえて、スポークの代わりにうまく嵌め込むことで解決したりする(蛸は死後硬直が始まっているので硬い、という理屈が入る)。

その後、水中で銃撃戦になって、防水ピストルの弾が○○○で出来ていたりする(理由は一応あって、最後の一行で分かるという落ちになっている)。

この程度の例で驚いたり呆れたりしている人には全く向いていない本で、他にはもっとナンセンスな話がある。タイトルだけ挙げるのでおよそ察してほしい。「空飛ぶボートの謎」「聖ニャンコラン通りの悲劇」「人殺しをする赤ん坊の謎」「真夜中のカタツムリ」「血まみれの細菌たち」「巨大なインク壺の謎」などである。

さらに、訳者が悪乗りして勝手に駄洒落を書き加えたり、よせばいいのに話の後に余計なコメントを入れたりする。この辺を素直に楽しむか、それとも読まなかったことにしてスルーするか、といった微妙な判断も迫られるのだ(私は見なかったことにして記憶から消去している)。ほとんど障害物走をするような読書体験を味わえる。

とにかく馬鹿では読めないし、利口でも読めない、中途半端はなお読めない珍品なので、読みこなす自信のある人か、よほどの物好きにだけお勧めしたい。