子母澤寛といえば新選組三部作が有名だが、そっちは図書館になかったので代打のつもりで借りたのが「幕末奇談」である。
前半は「幕末研究」で語り口がいかにも江戸弁っぽい喋りの雰囲気の残る文章、後半の「露宿洞雑筆」になると、さらにくだけた調子で短いエピソードが紹介される。
全部書くと大変なので、近藤勇の養父の話だけメモしておきたい。
この人は剣術道場の主なのだが、九人の女房を持って七人の妾を持っていたという。しかも酒をガバガバ飲んで、酔うと酒乱で物を投げる。剣客として試合を申し込まれると、すぐに降参してごまかす。
で、最も印象的なのは、
「この辺の蛇は周助さんの姿を見るとみんな隠れてしまうといったものです」
とのことで、蛇を見るとつかまえて、その場で皮をむいて生でむしゃむしゃ食ってしまうという。
蛇だけでなく蛙、夏は蝉、芋虫、そこら中の虫を食って歩くそうで、維新だの開国だの何だと言ってもこういう人がウロチョロしていた時代なんだなあ、と妙に感心してしまった。