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読んだ本の感想やメモなど

「30の神品 ショートショート傑作選」江坂遊(編)

 

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「ショートショート」というと星新一を少し読んで、他のSF作家の手によるものや、このジャンルの名作を何作か読んでお終い、というコースを辿る人がほとんどではないだろうか。

本書は「あまりにも有名すぎて、今さらどのような顔をして読んでいいのか分からない」というレベルの名作傑作が多いので、未読であれば一応の常識として押さえるべきではある。たとえ既読作が多くあっても、私のようなお決まりのコースを卒業済みの者にとっては復習用のアンソロジーとして便利といえば便利な本である。

 

30の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)

30の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)

 

 

収録作は以下の通り。

 

ヒッチコック「クミン村の賢人」
和田誠「おさる日記」
スレッサー「最後の微笑」
阿刀田高「マーメイド」
マシスン「一年のいのち 」
半村良「箪笥」
ブラッドベリ「みずうみ」
星新一「おーい でてこーい」
F・ブラウン「後ろで声が」
眉村卓「ピーや」
O・ヘンリ「賢者の贈りもの」
筒井康隆「駝鳥」
ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」
中原涼「地球嫌い」
サキ「開いた窓」
かんべむさし「水素製造法」
ボンテンペルリ「便利な治療」
都筑道夫「らんの花」
ジャック・リッチー「旅は道づれ」
赤川次郎「指揮者に恋した乙女」
アシモフ「不滅の詩人」
岸田今日子「冬休みに あった人」
ジェイコブズ「猿の手」
江坂遊「かげ草」
ストックトン「女か虎か」
城昌幸「ママゴト」
ロバート・ブロック「夫を殺してはみたものの」
山川方夫「待っている女」
コリア「ナツメグの味」
小松左京「牛の首」

 

ベタすぎる……。

「賢者の贈り物」!「開いた窓」!「アウル・クリーク橋の一事件」!「猿の手」!「女か虎か」!

この辺りは、ある程度の本を読んでいる人間なら未読でもあらすじを知っているレベルの有名作である。ショートショートというより、世界文学全集の短篇編の巻とか、怪奇小説傑作選の方に本籍があるタイプというべきか。「賢者の贈り物」など中二の時の英語の教科書に載っていた。

しかし、読んだのがあまりにも昔なので、一応は謙虚な気持ちで再読してみると……、

 

 

 

 

 

「記憶してるまんまだなオイ!!」

 

と言いたくなるような作品がチラホラある。

逆にあらためて名作だなと思ったのはサキの「開いた窓」で、何度も読んで分かりきっている落ちだが、落ち以外の描写に無駄がなく、これこそ名作と再認識した。

「女か虎か」も、筋そのものは「はいはいはいはいはいはいはいはい、わかったわかったわかったわかったわかったわかった」と言いたくなるような内容だが、古風な文体なので、かえって古くならないのであった。

他に海外の作品では、ブラッドベリの「みずうみ」もパッと見は古臭い文章なのだが古くならない。

 

ホットドッグ・スタンドはどれも金色の板をはって店じまいし、楽しかった長い夏の、からしと玉ねぎと肉のにおいを封じこんでいる。それはまるで、夏をいくつもの棺に閉じこめ、釘を打ってしまったようなものだった。店は一つ一つ覆いをおろし、ドアに南京錠をかけ、吹いてきた風は、七月と八月の数えきれぬ足あとを消し去ってゆく。九月の今ごろはそれも終わって、水ぎわには、わたしのゴムのテニス・シューズのあとと、ドナルドとディローズ・アーノルドの足あとしかなかった。

 

砂が幾重ものカーテンとなって歩道に舞いあがる。帆布に隠れたメリイゴーラウンド。その下では、歯をむきだして疾駆する馬の群れが、真鍮の棒の上で凍りついている。音楽は、帆布をかすめる風の音だけ。

 

これぞブラッドベリ!と叫びたくなるほどの描写で、もし今「好きなSF作家は?」と問われたら直立不動で「ブラッドベリです!!」と答えたくなる。逆に描写が腐ってしまっている短篇とは天地の差がある。

 

日本作家の作品も新味に乏しく、「おーい でてこーい」「箪笥」「牛の首」あたりは有名すぎて何も言えない。

……と思っていたら意外と「牛の首」は描写がシンプルなので再発見したような気になった。最初の3ページほどは会話が中心で、時間も場所もはっきり書いていないのである。私とS氏とT氏の立場や関係も書いていない。2ページ半ほど進んでようやく「私は、怪談好きの友人や作家をたくさん知っていたので、」という描写があるだけなので、普通に読むとエッセー調で小松左京本人が書いているような雰囲気がある。

ただ本作を中学生の頃に(確か集英社文庫で)読んだ時点では、さほど名作とは思わなかったし、はぐらかされたような印象を受けたのみであった。

いま読むと、これは普通の小説というよりは「概念の提示」に近いような面がある。よって普通の小説と「牛の首」の距離は、普通のアートとコンセプチュアル・アート(例えばデュシャンの「泉」)の距離のようなものかと思った。

 

他にはかんべむさしの「水素製造法」が入っていた。これはSFではないし、バカSFとも少し違い、星新一タイプのショートショートとも違う。強いていえばユーモア・スケッチに近いといえば近いが、最後にまたひと捻りがあって、実に独特のポジションの読み物である。

 

とにかく全体にベタなセレクションなので、もともとショートショートを読んでいない人でも「こういう落ちは何となく知っている」と思われそうである。実際、一話完結型の漫画やドラマに流用されて、いつの間にか消費されてしまっている点がショートショートというジャンルの弱みである。

 

もし自分が選ぶとすれば、同じ作家ならもう少し捻って、半村良なら「めぬけのからしじょうゆあえ」、小松左京なら「ウインク」、筒井康隆なら「急流」、サキなら「スレドニ・ヴァシュタール」などを入れてみたい。

 

大人のための残酷童話 (新潮文庫)

大人のための残酷童話 (新潮文庫)

 

 

掌の小説 (新潮文庫)

掌の小説 (新潮文庫)

 

 

おとしばなし集 (集英社文庫)

おとしばなし集 (集英社文庫)

 

 

かなしき女王―ケルト幻想作品集 (ちくま文庫)

かなしき女王―ケルト幻想作品集 (ちくま文庫)

 

 

追加する作家なら倉橋由美子は怪奇掌編や童話のパロディを書いていたし、川端康成も「掌の小説」がある。それに石川淳の「おとしばなし集」やフィオナ・マクラウドの「かなしき女王」も入れてしまいたい。そういう自己流のベストを考えてみたくなる。