めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

「浮遊霊ブラジル」津村記久子

津村記久子の短編集「浮遊霊ブラジル」収録の「地獄」を読んだら、生前にドラマ、映画、小説、その他あれこれの「物語」を消費しすぎた罪によって主人公が「物語消費しすぎ地獄」で罰を受けるという話だった。

これは結構、身につまされる鋭さを持っている。

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「別冊太陽 小泉今日子」

「別冊太陽 小泉今日子」は買うつもりがあまり無かったのだが、仕事先の訪問時間を調整するために書店に入って、何となくパラパラ読んでみて、これで1800円は安い、と思って購入した。

 

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それで昨夜、別の本を読み終えた後で読み始めて、読み終えるまでずっと本の内容に夢中になりっぱなしで、途中で休憩を挟まずに一気に最初から最後まで没入して読んだ。こういう経験は久しぶりである。
内容は主にプライベートな写真と、206の質問、あとは「師」と呼ぶほど影響を受けた人(久世光彦、相米慎二、淀川美代子、大島弓子など)に関する対談がいくつか、他には本人によるエッセーやアルバムなどで、構成も人柄もシンプルで良い。

 

 

たとえば対談相手の写真が、久世家の遺族以外はまったくない点を含めて実にシンプル。余計な広告ページや無関係な人の文章がなく、丁寧に作られていることが伝わってくる本だった。

「聖痕」筒井康隆

久々に筒井康隆を読んで、文章を前へ前へと読ませる力に驚いた。

聖人伝のパロディのような、また現代の日本において「聖人」はいかに成立するか、という問いへの答でもあるような作品で、冒頭の事件Aから、必然としてBとなり、ということはCになるはずで、ならばD、という論理的な連関が絶え間なく続く。

 

 

この先はどうなることかと思われた疑似家族的な関係を感動的に盛り上げてしまう、瑠璃にまつわる一連の流れが見事で、その後に真のクライマックスが訪れるのも見事だった。

古語や死語を散りばめつつ、省略に省略を加える文章ながら厚みのある作品世界になっている。