タイトルにある通り、いわゆる左翼の「進歩的文化人」の発言を取り上げ、それがいかに間違っているかを検証した本である。
単行本で二段組、字面が真っ黒なので読むのが大変かと思ったが、基本的に、
誰かの発言を紹介する
↓
間違いを解説する
という流れが延々と続くので、ヒステリックな批判の書という雰囲気ではない。それどころか、いつのまにか「愚かな生徒と忍耐深い教師の対話」のようにすら見えてくる。
さらに言うと、この本は後だしジャンケンのようなものと言えなくもなくて、連戦連勝が続きすぎる。しかしそういう違和感を補って余りあるくらい、進歩的知識人の発言が酷すぎるので、最終的には、
ボケ
↓
ツッコミ
の連鎖が続くような、独自のリズムを持つに至る。
そして読後感としては、「面白いもの」「可笑しいもの」を見た後のような、胸のあたりのこわばりがほぐれた時のような、独特の後味が残った。
堅苦しい本だと思って敬遠していたが、かなり愉快な面もあり、貶し方の表現に味がある。
特に「笑い」に近い領域にまで行った箇所として、106ページの「便所の百ワットのごとく無意味に明るい」、111ページの「石橋は小学校で元寇のことを教えてもらわなかったのかもしれないが、日本が存亡の危機に立った元寇のときは、日本は朝鮮半島と陸続きだったのか。」、364ページの「『つながる』論」の3箇所を挙げたい。
自分にとって面白い本でも、他の人にまで勧めたくなるような本はそう多くないが、この本はお勧めしたい。政治や議論の本なんてイヤだ、という人に対しては第5章「『非武装中立』の妄想」、第10章「すばらしき北朝鮮」あたり、あるいは「あとがき」だけでも面白いよ、と言いたいくらい。
注:この感想は94年刊行の単行本を読んだ際のもので、ページ数は全て古い単行本のもの。その後、本書は山本七平賞を受賞し、文庫化されている。
さらに2015年には新装版の単行本も出ている。
「悪魔祓い」の戦後史―進歩的文化人の言論と責任 (文春文庫)
- 作者: 稲垣武
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1997/08
- メディア: 文庫
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