めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

「大股びらき」ジャン・コクトー

面白いものに出会うと、精神が活発化して、肉体的にも抵抗力が強くなるように感じられる。つまらないものにぶつかってしまうと、逆に精神も肉体も参る。寿命を削られたようにすら思ってしまう。

先日、たまたま観た映画がかなり退屈だったので、肉体的苦痛に近いものを感じていた。

そういうときにコクトーやラディゲを読むのが長年の習慣になっている。私にとっては万能の薬のように読むと頭がすっきりして、体も軽くなる。簡潔で、想像力豊かで、軽快な文章によって精神のマッサージを受けているような気分にさせてくれる。

 

大胯びらき (河出文庫)

大胯びらき (河出文庫)

 

 

といってもお終いの4分の1ほどは読まずに、最初から途中まで読んでお終い、ということを繰り返していたのだが、めでたく昨夜読み終えた。

 

その知性は鋭く磨ぎすまされて、彼は丁度飴ん棒をしゃぶるように、味わいながらこれをとんがらせていた。

 

彼女の美しさは、もう少しで醜さに変る一歩手前の美しさだった、あたかもアクロバットが死の一歩手前にいるように。それも一種人を動かさずにはおかないものだった。

 

彼女は、ぐらぐらする歯を一思いに抜いてしまって、早く心機を一転させる術を心得ているあの歯医者に、似ていた。

 

一等二等の差はあるけれども、人生はわれわれすべての人間を一緒くたにして、死の方向へ全速力で進む一台の列車の中に、つめこんでしまう。

 

流れ出る汗の泉が、彼の肉体に無数の孔をうがった。心臓の鼓動が弱まって来た。激しく鼓動した直後には、それだけ心臓は弱まるようであった。肩の上に、天使が触れていた。彼はぐんぐん沈んでいった。水は耳より上に達した。この段階は長びいて、いつ果てるとも知れなかった。