有名な漫画家の絵や作家の文章のパロディを集めた本で、以前探した時は全く影も形もなかったのに、先日なぜかひょっこり発見できたので購入した。
特定の書き手のエッセンスを取り出して模倣しているタイプのものはいずれも面白い。「雪国」を星新一、永六輔、田辺聖子、池波正太郎の文章で書いたものは絶品である。星新一の場合はいかにも星新一的な落ちまでつくし、田辺聖子はあの妙にホッとさせてくれるところまでそっくり。
ひとつ例を挙げると、
それは…。
文筆家・島村が、再び〔湯沢温泉〕を訪れるための汽車の旅であったが、〔国境〕の長いトンネルを抜けると、
(あっという間に・・・)
そこは〔雪国〕であった。
信号所に汽車が止まった。外を眺めると、バラックが山裾に寒々と散らばって、
(雪の色が闇に呑まれるような・・・)
夜であった。
その時。
これは池波正太郎で、( )や〔 〕の使い方が特徴的。
「暮らしの手帖」のパロディで「殺しの手帖」というのもあって、花森安治をもじって自分の名前を「和田誠治」にしているという、たった一文字の無意味ななりきりぶりがよい。その軽妙なアホさ加減が絶妙でたまらない。
自分自身の「お楽しみはこれからだ」を自分でパロディ化しているものもあって、これが一番凄い。いわばコロッケがコロッケのまねをしているようなものだ。その観察眼、技術、軽み、意志の強さに驚く。
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これはおよそ10年前に書いた感想のメモで、いま調べたら2017年になって同書の増補版「もう一度 倫敦巴里」が出ている。面白い本なのでお勧めしたい。文体模写は新しく村上春樹バージョンが追加されているとのこと。
和田誠、1977年初版の伝説的名著『倫敦巴里』が、未収録作を加え、『もう一度 倫敦巴里』としてついに復活!
川端康成の『雪国』を、もし植草甚一が、野坂昭如が、星新一が、長新太が、横溝正史が書いたとしたら。(『雪国』文体模写シリーズ)
イソップの寓話「兎と亀」をテーマに、もし黒澤明が、山田洋次が、フェリーニが、ヒッチコックが、ゴダールが映画を作ったとしたら。(「兎と亀」シリーズ)
ダリ、ゴッホ、ピカソ、シャガール、のらくろ、ニャロメ、鉄人28号、星の王子さま、ねじ式、007、「雪国」文体模写……数々の名作が、とんでもないことに!?
谷川俊太郎、丸谷才一、清水ミチコ、堀部篤史(誠光社)の書き下ろしエッセイを収録した特製小冊子付。(※丸谷才一さんのエッセイのみ、再録となります)
和田誠の戯作・贋作大全集。これが遊びの神髄だ!