「ナルニア国ものがたり」の6作目。
邪魔が入らなかったので、一日で読了できた。
今回は全体を貫くような主人公の大目標というか、冒険の動機が初めのうちはよく見えない。何となく巻きこまれ型というか、状況が主人公を引っ張っていくような話で、そのことがかえって話を面白くしている。
先が見えないので、小さいツイストが何度もあるように感じられた。こっちの現実の世界と、あっちのもう一つの世界を行ったり来たりという感覚は何となく藤子不二雄っぽくて愉快。
- 作者: C.S.ルイス,ポーリン・ベインズ,C.S. Lewis,瀬田貞二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/11/17
- メディア: ペーパーバック
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他に思うことをいくつか。
1. ある女性が、男の子にとっては非常に美人に見えるが、女の子の目には大して美人ではない、という描写が妙にリアル。
2. 今回もまた「刹那的な快楽」「裏切り」への誘惑がチラチラ出てくる。
3.聖書との関連でいうと、禁断の木の実や創世記の部分がそれらしく出てくる。そして原罪。生きることは即、罪を背負うことであるという認識。
4.「こんな奴がこっちの世界に来ちゃったよ!」「こいつもこっちの世界に行っちゃっていいのかよ!」という驚き。それがきちんとまとまる。
5. 作者のC.S.ルイスは少年時代に母親と死に別れている。昨日そのことを知って、今日この「魔術師のおい」を読んだ。
そのせいかどうかわからないが、この「魔術師のおい」全体を包むように大きな軌道を通って描かれるのは、ディゴリーと母親の関係であるように思われる(あくまでも芯の部分は「ナルニア国の誕生」であるけれども)。
6. ユーモア。「一同はこのへんな生きものがすっかり好きになって、アスランが飼っていいとゆるしてくれればいいと思うようになっていました。」という文には笑った。
7. 終盤から最後の最後まで、シリーズ全体の謎が見事に解かれる。年代順に読んでしまうとしたら、この謎解きの快感はゼロなので、やっぱり執筆順に読むべき(つまり1作目の「ライオンと魔女」から普通に)。
8. 5作目にさりげなく出てきたセリフがまた出てくる。
「王たるもの、いくさの際はこのようにすべし」
この心がまえが、きちんと長い時間を経て伝わっているんだなあという感銘
を受ける。時間もののSFでよく出てくるやつである。