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「酔って候」司馬遼太郎

 

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諸藩の殿様が、幕末期に何をしていたかを描いた短編集。

お正月に「死ぬことと見つけたり」を読み終えて、佐賀鍋島藩のその後はどうなったのか気になっていたので読んでみた。

 

四人の賢侯を軸に幕末を描く短篇集
幕末の混迷期、なす術を知らない三百諸侯のなかで、自らの才質をたのみ、また世間の期待を集めた「賢侯」たちーー土佐の山内容堂、薩摩の島津久光、伊予宇和島の伊達宗城、肥前の鍋島閑叟。
史籍をよみ、歌をよんだ教養讃美者でありながら、酔態をさらして“狼候"といわれた十五代土佐藩主・山内容堂。佐幕と勤王に揺れる血気盛んな生き様を描いた「酔って候」。
薩摩藩主・島津斉彬亡き後、実権を握った島津久光。後の大久保利通との親交、統幕の乱世に久光が果たした役割が描かれる「きつね馬」。
伊予家宇和島城下の提灯張替え屋嘉蔵が蒸気軍艦船の建造に携わる「伊達の黒船」。
倒幕に加わらず、藩政改革に取り組んだ佐賀藩主・鍋島閑叟の生涯を描いた「肥前の妖怪」。

 

新装版 酔って候 (文春文庫)

新装版 酔って候 (文春文庫)

 

 

四編のうち順番としては最後の「肥前の妖怪」が鍋島閑叟の話なので、最初に読んでみた。この人が「葉隠」のことを何とも思っていないどころか軽蔑して、ほとんど馬鹿にすらしている(おそらく作者も)のでこちらとしては熱が冷めた。良い意味で。

上記あらすじにもあるように、倒幕に加わらず、密貿易で金を作ったり、その資金で軍艦を作ったりするのが鍋島閑叟である。覚めていて、独特の風情があって興味深い人である。

佐賀藩に関しては、「歳月」という上下巻の長編もあるようなのでちょっと興味を持った。

 

新装版 歳月(上) (講談社文庫)

新装版 歳月(上) (講談社文庫)

 

 

次に読んだのはその前の「伊達の黒船」。

これは殿様というより、提灯の張替えをしていた男が軍艦を作るよう命じられて、酷い目に遭うという話である。言うまでもなく提灯と軍艦ではかなりの隔たりがあるのだが、何しろ身分が違いすぎるため、無理が通れば道理引っ込むといった流れでやらざるを得なくなる。

あとがきで作者は「藩主なるがゆえに歴史の風当りをもっともはげしく受け、それを受けることによって痛烈な喜劇を演じさせられた」と書いていて、確かに後世の人間から見れば喜劇的だが、殿様であれ庶民であれ、本人にとってはほとんど笑えない、悲劇そのものといった展開も少なくない。

この話でも軍艦がやっと動いて小便を漏らした、といった記述に(そこだけ読めば)子供なら笑うかもしれないが、大人の目で読むと笑うに笑えない悲しさの方が勝る。


次は「きつね馬」で、薩摩藩の島津久光の話。冒頭に「ろくでなし」と書かれているだけあって、ほとんど最初から最後までいい所がない。

母親のおゆらの悪逆非道ぶりがフィクションかと思うほど常軌を逸しており、こんな調子である。

 

おゆらは、ながい歳月をかけてこの公子や公女を順次殺し、ついに世子斉彬が四十になるまでのあいだに子女七人をことごとく殺した、とされる。
家中のものはみなそれを知っている。殺し方もさまざまだったことを知っている。食物を飼って自然死させたり、修験者をだきこみ、呪法によって呪死させたりした。そのときどきに証拠があり、そのつどいわゆる正義派が立ってこれをあばこうとしたが、そのつどおゆら派のために敗れ、死罪に処せられた。ある正義派の者は墓まであばかれ、その腐爛死体をひきずり出され、ノコギリ引きにされた。

 

調べてみると、このお家騒動は直木三十五の「南国太平記」でさらに脚色されて描かれているとのこと。

 

南国太平記 上 (角川文庫)

南国太平記 上 (角川文庫)

 

 
小説としては京都へ行って愚行をして、江戸に行って馬鹿にされて、帰りに薩英戦争の切っ掛けになった生麦事件を起こすのがクライマックスだが、これもやはり笑うに笑えない。あっちこっち飛び回って、平然と妙なことをしでかして(本人はけろりとしている)、結局は蚊帳の外に置かれてしまう。

こうした愚かさに変な生々しい感じがあって、作者からも冷たく扱われているようでため息が出てしまう。

 

最後に読んだのが冒頭の表題作「酔って候」。「史籍をよみ、歌をよんだ教養讃美者でありながら、酔態をさらして“狼候"といわれた十五代土佐藩主・山内容堂」という訳で、この人は他の三編よりも主人公としての行動力や思考力がある。

しかし、どうも身分やらタイミングやらが悪く、大物になりそうで小物感が漂う人で「世が世なら」と嘆くばかりの不遇の人という印象が残る。文庫で150ページくらいの、中編といっていいくらいの長さがあって、クライマックスの小御所会議は迫力があり、読み応えがある。

 

今まで司馬遼太郎の小説は「間延びしていてかったるい」という印象がどうしても拭えなかったのだが、本書はどれも興味深く読めた。

幕末から明治維新を扱った諸作はいずれも横のつながりがあって、あちこちに同じ人物がちょいちょい出てくるので読みやすい。手塚治虫のスター・システム的な感じで「あっ、あの人か」と思わせるところがある。

 

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