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読んだ本の感想やメモなど

「トラウマ文学館」頭木弘樹

 

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トラウマという言葉は大衆化されすぎて、日常会話ですら頻繁に使われるようになった。

少し嫌なトラブルがあっただけで「トラウマになる」、嫌いな食べ物の思い出話をするだけで「トラウマになった」などと言われるくらいなので、どうも大げさに感じる。

本書は「トラウマ」でしかも「文学館」とやや大げさなタイトルだが、内容はちょっとダークな話ですよね、といったほどの小品、短編、漫画からなるアンソロジーで、ごくごく普通である。たとえばテレビの受信料を払いたがらない父親の話は、やや暗めのエッセーかユーモア小説のようだった。

 

トラウマ文学館 (ちくま文庫)

トラウマ文学館 (ちくま文庫)

  • 作者: 直野祥子,原民喜,李清俊,フィリック・K・ディック,筒井康隆,大江健三郎,深沢七郎,フラナリー・オコナー,ドストエフスキー,白土三平,夏目漱石,ソルジェニーツィン,頭木弘樹,斎藤真理子,品川亮,秋草俊一郎
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/02/08
  • メディア: 文庫
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他に筒井康隆、大江健三郎といったビッグネームが並ぶものの、たとえば「走る取的」は前々からピンと来ないので、これなら「顔面崩壊」「蟹甲癬」「最高級有機質肥料」の方がトラウマになりそうである。筒井康隆といえば、かつては書店に筒井康隆によるアンソロジー(「異形の白昼」、年代別日本SFベスト集成など)が結構あって、曽野綾子の「長い暗い冬」、永井豪の「ススムちゃん大ショック」などはそうした本で知ったことを急に思い出した。これらはまさしくトラウマ系の作品であった。

 

異形の白昼 恐怖小説集 (ちくま文庫)

異形の白昼 恐怖小説集 (ちくま文庫)

 

 

漫画は白土三平の犬に関する短編が入っていて、やや冗漫に感じられた。これなら「カムイ伝」から悲惨なエピソードを抜粋した方がいい。

思うに後々まで衝撃なり心の傷なりが残りそうな話には、主に三通りある。

 

1.そこそこ悪いことをして、あるいは落ち度があって悲惨な目に遭う

2.何の罪もないのに悲惨な目に遭う

3.良いこと、正しいことをしているのに悲惨な目に遭う

 

世間で不条理といわれる話はたいてい2.になる。「カムイ伝」の場合は身分制度に対して「せめてこのくらいは認めてくだされ」と陳情しただけで悲惨な目に遭うくらいなので、3.である。しかも「正しいことを言っている主人公が最後には認められる」という暗黙の了解を踏みにじられたりもするので、カウンター気味で衝撃が来る。読み返すのも思い出すのも嫌なほどうんざりするほどで、それでも記憶に焼きついているのだからまさしくトラウマである。

 

決定版カムイ伝全集 カムイ伝 第一部 全15巻セット

決定版カムイ伝全集 カムイ伝 第一部 全15巻セット

 

 

この種のやりすぎな残酷系トラウマ漫画では、他に山野一の「どぶさらい劇場」、沙村広明「ブラッドハーレーの馬車」などが印象に残る。

 

どぶさらい劇場

どぶさらい劇場

 
ブラッドハーレーの馬車

ブラッドハーレーの馬車

 

 

前者は因果応報的な面もあるのでまだしもだが、後者は本当に真っ暗で救いのなさすぎる作品なので、この手の刺激に飢えている人以外には軽々しくお勧めできない(「トラウマ文学館」には失望を感じた、これでは生ぬるい、と感じた人には向いている)。