読書会を主宰しているので「普段はあまり本を読まない」という人から「どんな本を読んだらよいのか分からないんですけど」という相談を受ける機会が増えてきた。
「何でも好きな本を読んだらいいじゃないですか」
と言いたいところだが、それができないという人は意外に多い。
まず「ネットで何かを検索して、調べることができない」というお年寄りは、それだけでもうかなりの可能性が閉ざされてしまっている。ネット経由での探索ができないと、できるようになるまでパソコンなりスマホなりの操作の段階から教えなければならず、実質的にそれは難しい。
それなら現実の書店にいる書店員や図書館にいる司書が相談に乗ってくれるかというと、これがまた難しい。ほとんどの書店員や司書、図書館で働いている人はあまり本を読まないという話も聞くし「そんな初心者相手の相談なんて、やってる暇がないです」というのが本音ではないだろうか。正解らしい正解はないし、責任は妙に大きそうだし、クレーマーを呼び込むことにもなりかねないし、何より報酬がゼロとくれば、誰もやりたがらないに決まっている。そういう訳で、お年寄りにも学生にもサラリーマンにも主婦にも、この方面の道は閉ざされている。
専門家が当てにならないとなると、家族や友人知人に相談することになるらしいのだが「これ面白いよ!」というお勧めに従って読むにしても、やはり好みが人それぞれだし、当たり外れもある。
しかし、それでも漠然と「本を読んでみたい」と思っている人は結構いるもので、ドラマやゲームや別の趣味ではなく、とにかく「本」を読むことに敬意と憧れを抱いて相談してこられる。そういう人を冷たく突き放すことはできないので、何とか個別に話を聞いたり、具体的に書名を挙げたりしてはいるのだが、なかなか上手く進んでいるようなそうでないような、モヤモヤした感じが残る。
おおむね「本を読むのが苦手、でも本を読みたい」と考えている人は、まず以下のような偏見、誤りを正してみてほしい。
1.小説を読もうとする
本を読みなれていない人は、むしろエッセーとかノンフィクションを読むべきではないでしょうか。「読むべきです!」と強制はしかねますが、東海林さだお、椎名誠、さくらももこなど、少なくとも「難しすぎて読了できなかった」ということにはならないような本を2,3冊でも読めばよいのでは。
もう少し高級そうなエッセーを望むのであれば、向田邦子、須賀敦子、白州正子など。書店の女流エッセーコーナーにでも行けばもっと沢山あります。
ミラノ霧の風景―須賀敦子コレクション (白水Uブックス―エッセイの小径)
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2.広告にひかれて読もうとする
広告は大抵の場合、嘘や誇張が混じっており「書評家」「人気作家」「書店員」がこぞって大絶賛!今、売れてます!という文句には飛びつかないほうがいいです。
3.何々賞受賞作!にひかれて読もうとする
「芥川賞」「直木賞」という言葉に惹かれて手を出すが、読んでみると……というよくあるパターンで、結局のところ、いや元来「何々賞」というお祭りは自社の出版物の販売促進イベント兼宣伝なので仕方がないです。
4.映画化決定!ドラマ化決定!につられて読もうとする
「ちょっとひと目を惹くタイトル+人気のある芸能人=客が入るだろう」
という見込みはもう成立しない世の中になりつつあるような……。
「ドラマや映画は大コケだが、原作の方は面白い!」
というケースもありますが、作り手が想定している客層をよく考えてから、自分が読むべきかどうかを考えた方がいいですね。
有名そうだからきっと面白いはず、という期待は裏切られることの方が多いでしょう。
5.古典的名作を読もうとする
やる気満々で「戦争と平和」「源氏物語」「失われた時を求めて」「ユリシーズ」などを全巻一括で購入してしまう。これはやる気満々で自殺を試みるのに等しい行為で、それならまだしも4.の誤りの方をお勧めします。
6.他人にアドバイスを求める
矛盾するようですが、他人は当てになりません。当てになりそうな書評家や作家、評論家を探す、という意識を持つのは大切ですが、自力で獲物を狩るような気持ちで臨まなければ、嘘まみれの宣伝に丸め込まれ、金と時間と読む気を奪われてお終いです。
……と、試しに書いてみたらすっかり暗い気持ちになってしまった。
もう少し親切に「どんな本を読んでいいのかわからない人のためのブックガイド」のようなものを書けないものだろうか?簡単にいうとエンタメ系の平易な有名作品を起点にするか、自分自身の興味や関心から入るのが良いと思うのだが、もう少し整理して考えてみたい。
今週のお題「読書の秋」




