今年の春先から自分が責任者になって読書会を行っている。夏ごろから本格的に人を集めていくうちに今では6~7名に増えてくれたので、定員いっぱいまであと数人という状況にまでなった。
人集めはこれでよいのだが、どんな本を選ぶかが難しい。
「普段はあまり本を読みません」という参加者が多いので、読みやすくて分かりやすい本を中心に選ぶ必要がある。
最近、参加者や見学希望者と話をしていて「椎名誠が好き」という人がいたので、「白い手」という自伝的小説の簡単そうなものを選んでみた。
1.椎名誠なら、有名だからみんな知っているだろう
2.椎名誠なら、読みにくいとかつまらないという感想はあるまい
3.椎名誠なら、著書が沢山あるので、次に読む本に困らないだろう
と考えたのである。
ところが、いざ課題図書として椎名誠の本を渡してみると、1.はそうでもなくて「知らない」という参加者がチラホラいた。考えてみると自分が椎名誠の本を読んでいたのは80年代から90年代頃で、「岳物語」やSF三部作が出てから20年以上も経っているのだ。
2.の感想については、まずまず好評だった。70代のお婆さんなど、こんなに面白い小説を有難うございますとお礼を言われるほどなので、まあ合格といえる。
3.が意外と厄介で「この本は面白かったけど、次は何を読んだらいいんでしょうかねえ」と訊かれると、普通なら「著書が多いから何でも目に付いたものを読めばいいでしょ」と言っておしまいである。しかし相手がお婆さんとなると、
・小説とエッセーの見分けがつかないんです
・見分けがついたとして、何を読めばいいのかわからないんです
・どこで本を探したらいいのかわからないんです
という疑問に丁寧に応じるのは、それなりに大変で手間もかかる。「自分でネットを見て調べれば大体わかるでしょ」「図書館や書店やブックオフに行けば」と言いたいところだが、ネットなりスマホなりを使いこなせないとなると、そう簡単に自力では解決できそうもないだろうな、とは思う。
この問題はこのお婆さん一人がうんと悪いわけではないし、椎名誠や出版社が悪い訳でもなくて、ましてや図書館や書店のせいにもできない。「椎名誠の本は面白い!もっと読んでみたい!」という欲望はちょっとしたきっかけで出来るのに、そこからうまく二冊目、三冊目の本そのものにつなげるルートがなかなか作れないのである。
仕方がないので、「ちょうど私が読み終えたばっかりの椎名誠の本があるから、お貸ししますよ」と言って「ぼくがいま、死について思うこと」を渡してみた。
本書は内容としては世界各地の葬儀の風習あれこれと思い出話なので、薄い割にはエピソードが豊富、まさしく読みやすくて面白く、椎名誠入門としてぴったりの本だと思うのだが、それも好みの問題だし、あとはとりあえず「岳物語」でもいかがでしょう、くらいのことしか言えなかった。