精神的に落ち込んでいる時に何を読むかというのは重大な問題で、まず「感情を揺さぶる」ような本は避けたい。というより困るし、第一疲れる。
普通の小説は、何も感じない状態の精神に揺さぶりをかけて心を動かして感動させたり関心させたり驚かしたりすることを目的としているものが多い。そういう作品こそが誉められる傾向にあるようにすら見える。それは優れてはいるかもしれないが、その長所がかえってマイナスに働くケースもあるのだ。
たとえば凶暴な事件の被害者やその遺族は、波乱万丈のエンターテイメントに心を躍らせるだろうか。肉親が亡くなったその日に「我輩は猫である。名前はまだない」なんて書き出しの小説を読むだろうか。
答はノーであるが、カフカの独自性を考えるための状況設定としては有効ではないかと思う。
- 作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1952/07/28
- メディア: 文庫
- 購入: 18人 クリック: 359回
- この商品を含むブログ (359件) を見る
普段ならさらっと読んで、
「訳がわからん」
で終わりそうな話も、心理状態によっては大きな慰めになってくれることがある。少なくとも自分にとってはそうだ。
これだけピントの合った簡潔な文章で不条理を淡々と描かれると、普通の小説は無駄な設定と描写ばかりで成り立っているような気にすらなる。