めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

ビジネス書売り場で石を投げるとダーウィンに当たるのでは?

「またかよ」と言いたくなるほど、頻繁にビジネス書で引用されるこの言葉……。

 

ダーウィンは「変化に最も対応できる生き物が生き残る」と言ったか?

http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2001/0927syosin.html

 

正直に言ってもうウンザリで、目にするのも嫌だが今月だけで二回も目撃した。

どうも日本で急速に広まったのは、小泉首相の所信表明演説が切っ掛けらしい。

この言葉がやけに目に障るのは、適応云々とか変化を促すとかいうより、

「つべこべ言わずに、こっちの都合のいいように動いてくれよ」

「俺様の言いなりになればいいんだよ」

という本音を糊塗するために使われているケースが多いからではないだろうか。

 

でもって、何だか胡散臭くて不愉快だなと思っていたら、実はダーウィンではない人の言葉らしい、という指摘が「文系が20年後も生き残るためにいますべきこと」の中にあったのでやや驚いた。

 

文系が20年後も生き残るためにいますべきこと

文系が20年後も生き残るためにいますべきこと

 

 

 ビジネスの世界で引用されるこの言葉は、じつはチャールズ・ダーウィンのものではなく、ルイジアナ州立大学のレオン・メギンソン教授のものらしい。しかし、たとえ誰の言葉であっても、一面の真理があることに変わりない。(P.153)

 

 えっそうだったのか、と思って「レオン・メギンソン」で検索してみると以下のようなブログを発見した。

 

blogs.yahoo.co.jp

 

この本を書いたメギンソンはルイジアナ州立大の経営学教授だった人物"http://publications.aomonline.org/newsletter/index.php?option=com_content&task=view&id=539"である。だからビジネス関連のサイトでよく使われるフレーズになったのだろう。もっともメギンソンは引用符を使っていないし、従ってメギンソンの本をもってこれがダーウィン自身の言葉だと解釈するのは無理がある。
 それにメギンソンのダーウィン解釈も決して正確とはいえない。そもそも種は進化の主体ではないし、また種は環境に能動的に適応するのではなく、まずは繁殖過程で突然変異を通じた多様化が生じ、その後に環境の変化が生じてその環境にあった子孫が生き延びて進化する。進化をもたらす力は種の適応力ではなく、あくまで自然による選択だ。
 とはいえメギンソンは「環境の変化に最もよく適応し順応」すると述べ、変化するのが環境であることを指摘しているので、まだ良心的と言えなくもない。しかしメギンソンの言葉は伝言ゲームで伝えられるうちに簡略化され、今では"most adaptable to change"や"most responsive to change"という表現になってしまっている("http://en.wikiquote.org/wiki/Charles_Darwin"参照)。何が変化するのかか曖昧になっているのだ。

 

結局はそのメギンソン教授も、ダーウィンの言葉を誤って理解していたようなので、こうなるとやがてはダーウィンという名前抜きで、作者不詳のことわざのような域にまで達していくのかもしれない。そして、誤読と拡散を繰り返し、変化に変化を重ねて生き延びたこの言葉こそ、進化学の教科書に載るべき事例なのかもしれない(新聞のコラムっぽくまとめてみました)。

 

追記:自民党は2020年になってもまだ変な曲解をしているだけでなく、自己宣伝の材料にまでしている。