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読んだ本の感想やメモなど

「死ぬことと見つけたり〈上〉」隆慶一郎

年末から熱を出して寝込んで、それでも面白く読めて、2日に上巻を読み終えた。新年初の読了本が「死ぬことと見つけたり」である。

 

常住坐臥、死と隣合せに生きる葉隠武士たち。佐賀鍋島藩の斎藤杢之助は、「死人」として生きる典型的な「葉隠」武士である。

 

というのがアマゾンの内容紹介の冒頭である。この「死人」として生きるという特異な思想は、他の(特に現代の)小説にはあまり見られない珍しい設定である。ほとんどの小説に出てくる人物は、幸福なり生きがいなり、目標や金や家族を思いつつ生きている。現実がそうであるからだし、さらに大前提として「生きる(=なるべく長く健康に)」という最低限の自分可愛さ、利己心を保持している筈なのだが、その前提を滅却してしまったらどうなる、という仮定が最初にあって、そこから様々な問題・事件を展開してゆくような進み方なのである。

 

死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)

死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)

 

 

常に死を覚悟して生きる、という人間は、言い換えればいつでも死ぬ鉄砲玉のようなテロリストでもあるし、ゾンビのようでもある。しかし「いくさ」自体がない時代なのでさてどうしますかね、といった状況下で島原の乱が起こる、というのが第一話で、その後のエピソードいずれも面白かった。隆慶一郎は常に論理的で、あらゆる場面に理屈の筋が一本通っている。

 

四日のあやめ (新潮文庫)

四日のあやめ (新潮文庫)

 

 

下巻を買いに書店に行ったのだが手に入らず、仕方なく家にあった山本周五郎の短編集「四日のあやめ」を読んでいたら「ゆだん大敵」という作品があって、これもまた葉隠という言葉は出てこないが、似たような武士の覚悟の話であった。偶然だが「死ぬことと見つけたり」を読了済の方には勧めたい。「死ぬことと見つけたり」を未読の方にも、入口として勧めたくなるほどぴったりの内容である。


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