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「犬の人生」マーク・ストランド

 

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詩人の書いた短編集。村上春樹の訳&解説のもので、古本屋で50円で買った。

詩人が書いただけあって、「小説になっていない」というか「小説未満」「未完成のスケッチ」という印象を受けた。

訳者あとがきでも、「なんのこっちゃ」とか「イメージの羅列」という表現が出てくる。「立ち止まってイメージの静止的細部に拘泥していると、全体像が掴めなくなってくる」と、この人の詩について説明されている部分があるが、同じことは小説にもいえそう。

 

犬の人生 (中公文庫)

犬の人生 (中公文庫)

 

 

しかし所々に魅力的な描写もある。

ある夫婦がいて、突然夫の方が「僕は以前は犬だったんだよ」と言い始める「犬の人生」では、犬が吠えることに関して以下のように書かれる。

 

僕らの瞳は新しい深みを帯びて輝いていた。僕らは吠え、唸り、言葉にならない声で語った。正しい声音を探し当てようと、何度も何度もそれを繰り返した。何千年も昔の僕らのそもそもの血筋にまで届くはずの、その正しい声音を求めてだよ。もしその声音がうまく維持できたなら、それは僕らの種族のみごとに純化された叫びになるはずのものであり、またそこに僕らの共同体的運命の勝利を運びこめるはずのものだった。僕らは陶然とした大気の中に尻尾を立て、失われた祖先たちのために、僕らの内なる野生のために、歌った。

 

これは話としてはSFっぽい感じに進展する可能性もあるけれども、そうならずに普通に終る。ジャンルでいうと「殺人詩人」などミステリ風の話ではあるが、犯人が最初からわかっていて、トリックがなくて動機が曖昧で、探偵がいなくて自白で終っても、ただ何となく人間の死さえ出せば形としてはミステリっぽくなるのは不思議である。その手の類例として山田詠美の「晩年の子供」や大江健三郎の短編のいくつかを思い出す。

「奇妙な味」の系列にも入るような面がちょっとある。訳者あとがきの最後で「奇妙な味」という言葉が出てくるけれども、乱歩の言い出した意味でなのか、そうでない意味で使っているのかちょっと曖昧に感じられた。