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読んだ本の感想やメモなど

「朝びらき丸 東の海へ」C.S.ルイス

 

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ナルニア国ものがたりシリーズ第三作は航海もので、今までに読んだことのある海洋冒険ものの記憶が次々によみがえってきた。

メルヴィルの「白鯨」、澁澤龍彦の「高丘親王航海記」「マドンナの真珠」、スイフトの「ガリバー旅行記」、さらに「竹取物語」の一部や尾田栄一郎の「ワンピース」、果ては「宇宙戦艦ヤマト」まで。

この手の話のルーツは「オデュッセイアー」なんだろうなと思いつつ読んでいたら、最後の方でチラッと言及されていた。

今回は全体を貫く大目的がやや薄いので、前ニ作ほどの感動と興奮は無いかなとやや不安半分、期待半分で読んでいたのだが、途中に寄る島々での個々のエピソードがいずれも鮮やかで面白く、ラストの14,15,16章あたりの静かな美しさと喪失感は前ニ作の動的な感情の高まりに匹敵する。

ただし前ニ作のような正攻法の起承転結ではなく、オムニバス的な構成なので、比較がしにくいという面もある。

 

朝びらき丸東の海へ―ナルニア国ものがたり〈3〉 (岩波少年文庫)

朝びらき丸東の海へ―ナルニア国ものがたり〈3〉 (岩波少年文庫)

 

 

中盤の「ユースチスの冒険」のエピソード、9から11章の「のうなしあんよ」のエピソードなどは特に印象深い。

8章の「焼けあと島」に関する話が後で出てくるのかなと思ったらそのまま触れられずに終わってしまったのが少々疑問(あと四冊の中で出てくるのかもしれない)。

また思いついたことをメモしておこう。

 

1. この話における航海の目的は二つあって、一つは七人の失踪者を探すこと、もう一つはこの世の果てを見に行くこと。前者は何となく黒澤明の「七人の侍」の前半みたいだなと思って調べてみたら、この作品は1952年の発表で、「七人の侍」は1954年の公開だった。

似ているといえば似ているが、似ていないといえば似ていない話なので、文化的同時多発性とかそういう風でもない。むしろ「失踪人探し」という観点から考えるとハードボイルドっぽさを感じる。

その線は四作目の「銀のいす」で継承されているようで、いま100ページほど読んだところだが、まさしく失踪人探しの話で、依頼人がアスラン。ただし孤独な探偵が一人で街をうろついて探す訳ではなく、少年少女が助けを借りながら冒険の旅に出るので悲壮感はあまりない。しかし別の意味での悲壮感がちょっとあるので、それは「銀のいす」を読み終えてから書こうと思う。


2. このシリーズは季節感が重視されているように思える。
第一作は冬から春、第二作はちょっと不明だが第三作は夏から秋という感じがするし、第四作は今のところ冬のイメージが濃厚。


3.「朝びらき丸」は読みながらモーツァルトのクラリネット五重奏をずっと聴いていた(「銀のいす」には今ひとつ合わない)。


4. 本作におけるリーピチープは名優と称えたくなるほど全体的に見せ場が多く、助演男優賞ものの大活躍である。特にユースチスとの確執、いざというときの勇敢さや優しさ。そしてチェスの弱さ。そしてその……全て。


5. 毎回同じだが、食べ物の魅惑的な描写。

あまりにも美味しそうなので、食べ物を越えてドラッグか何かのようにすら見えてしまう。おそらく人間の欲望のとめどなさを描くことが目的と思われるが、上手すぎて時にホラー的ですらある。

水を飲んだだけで「ああ、ずいぶん強くきくこと!もうなにも食べる必要がないわね。」なんていうセリフは少々こわい。「ライオンと魔女」でエドマンドが食べるプリンもそうだ。