「調理場という戦場」が面白かったので、すぐ購入、すぐ読了した。
内容は「調理場~」と重なる部分が多く、どちらかというとこちらの方が強い芯があり、濃い感じがする。
一皿ずつ、それぞれの料理に関する作り方とエピソードが語られるが、材料ひとつとっても「向こうのキャベツは脂肪気も旨味もこくも内蔵している」「すずきなんか、獰猛な顔してる。体躯もばーんと腰がはって、濃いブルーをして精悍そのもの。」なんていう表現が実に迫真的である。
この人は何でも材料を擬人化するなと思って読んでいたら「僕は物事を擬人化しないと分からないんです」という部分があった。与えられた環境をたえず解釈し、理解を深めながら経験を積んできた人ならではの知恵ではないだろうか。
急いではいけない。急いだものからは急いだ味しか出ません。
というのも実に味のある言葉だった。
ベルナールという、同じ店で知り合い、やがて相棒となる先輩の人間性に関する部分もよかった。
つらい思いをしてきたのに、そんなかげりを見せない、人の陰口なんてたたかない本当にいい奴なんです。ひねくれたところもなにもない。裏表がなくて、思いやりが深くて、もしも僕が女なら抱きついていたところです。
幼いころから諦めることを強いられ、他人の中で生きてこざるをえなかった彼
ベルナールがヴィヴァロワを辞めることになったとき、ムッシュ・ペローは庭に彼の銅像を建てたいと言ったほどでした。
ベルナール自身の言葉。
「なあ、マサオ。人がちやほやするものはつまらないよ。それよりも、なんでもないものを立派にしてやろうよ。下積みをひきあげてやろうや。なんにだっていいところはあるんだ」