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読んだ本の感想やメモなど

「海神丸(付・『海神丸』後日物語)」野上彌生子

 

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漂流してあっという間に水も食料も尽きてしまった海神丸に乗った4人の男がさあどうなる、という実話を元にした小説。

この手の極限状況下における人間模様は、いつ読んでも興味深く読める。空腹も怖いが、エゴ丸出しの人間はもっと怖く、その辺の葛藤が読みどころである。

 

海神丸 (岩波文庫 緑 49-1)

海神丸 (岩波文庫 緑 49-1)

 

 

この人の筆づかいは常に冷静で、余計な感傷がない。絶望的な状況にありながら、海や空や太陽の美を描く所などにそれを強く感じる。

 

もしお天気でも悪ければ、それに敵対する必要上からでもかえって気が引きしまったかもしれなかった。が、毎日美しい日ばかり続いた。明けても暮れても目に入るものはからっぽの無限に広い二つの空間――空と海、その間にただ一つの大きな鋲のように留まっている太陽のみであった。人間や、犬や、猫や、馬や、山や、河や、野原や、草や、樹や鳥や、あらゆる物象があれほど豊かに充満していた世界は、どこに消滅したのか。


おまけで後日の話もついている。これは小説を書いて50年後に、モデルになった話の中に出てくるある重要人物から、作者の元に直接連絡があって会うという話。

「ひろくて狭いこの世の不思議なさだめ」とあとがきにあるが、これが創作ならさほどのインパクトもないだろう。まさに事実は小説より奇なりと思わせる。