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読んだ本の感想やメモなど

「星新一 一〇〇一話をつくった人 」最相葉月

 

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星新一の評伝。関係者多数へのインタビュー、新発見の資料、膨大な参考文献をふまえた力作で、以前この著者の本を読んだ時は不満を感じたが、本書は実に見事な出来だった。

 

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

 

 

かなり言いにくいこと、触れにくいであろう部分にまで目と筆が届いていて、例えば1001編を達成した時の作品のことをほとんど誰も覚えていないのである。私も複数の雑誌に同時掲載されたうちの何編かは読んだ筈だが、記憶にない。

それ以外にもあれこれある。成功した以後の作品のマンネリ化。スランプ。無理解。他に比較できる作家がいない、独自の世界を完成させてしまったがゆえの孤独。理解しやすい作品を心がけたことで、かえって大人からは軽んじられ、一方では、年少の読者たちから無礼なファンレターが届く。

ある程度知ってはいたものの、星新一という人はどこか達観したところのある人かと思っていただけに、終盤はかなり胸が痛んだ。諸々の苦しみや、ある種の「重さ」から小説世界を守って守って、守り抜いたその意志の強さは感動的。

ところで「ボッコちゃん」のオウム返しのやりとりは、草野心平の「秋の夜の会話」が元ではないかと個人的に思っていたのだが、この本ではチューリング・テストの話が出てきたのが意外だった。

 

秋の夜の会話  草野心平

さむいね
ああさむいね
虫がないてるね
ああ虫がないてるね
もうすぐ土の中だね
土の中はいやだね
痩せたね
君もずゐぶん痩せたね
どこがこんなに切ないんだらうね
腹だらうかね
腹とつたら死ぬだらうね
死にたくはないね
さむいね
ああ虫がないてるね

 

星新一で印象深く、今でも覚えているのは「涙の雨」という、泣くという行為を肯定して、ほとんど賛美するような作品である。落ちもバカバカしくて大好きなのだが、自分以外でこの作品に触れている人、褒めている人をほとんど見たことがない。

 

注:この感想は2007年頃に単行本を読んだ時のもの。いま現在は上下巻に分かれて文庫化されている。

 

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

 
星新一〈下〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈下〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)