同じ内容を、違う文体で書き替える試みを何通りも並べた有名な実験文学にして奇書。それでいて少しも堅苦しくない。
- 作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,朝比奈弘治
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 1996/11
- メディア: 単行本
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他愛もないひとつの出来事が、99通りものヴァリエーションによって変幻自在に書き分けられてゆく。20世紀フランス文学の急進的な革命を率いたクノーによる究極の言語遊戯が遂に完全翻訳された。前人未到のことば遊び。
Mさんが感想を書かれているのを読んで、そういや自分もこれ好きだったんだよな~と思って再読してみた。
以下は読みながら思ったこと。
1.ちょうどジャズピアノの本を読んだり弾いたりしているところなので、
「ある曲をジャズ風にアレンジしたらこうなる」
という面白さに通じる面があると思った。最初にこの本を読んだ時にも「同じメロディを違う楽器で演奏したような感じ」という印象を受けた。
2.以前どこかで「文体練習コンテスト」的な企画を読んだことがある。
審査員にいとうせいこうや川勝正幸がいて、優勝したのはオリーブ風文体だったと記憶する。確か「とびっきりの夏がやってきたよ!」とか「~しなきゃ、ね。」みたいな文体で書かれていた。検索したがどうしても見つからない。
3.日本でこの試みに最も近い本は和田誠の「倫敦巴里」ではないか。
こっちもついでに再読したが、和田誠の場合は漫画家、画家のタッチ、映画監督の作風、および作家の文体模写の全てを一人でやってしまう。
4.この本が与えてくれる「軽さ」は、全くこの本以外からは与えられることのない独自の軽さで、頭に羽が生えたようになる。たいていの本は、読むと少し頭が重くなる。
5.この本は作品として楽しむことは勿論、道具として使うこともできる。
以前から、あまりにも難解すぎたり古すぎたりする文章はもう一度日本語に書き替え直すべきではないかと思っていたので、例えば日本語を日本語に訳し直す際の参考書として。
6.文体や作風の模写は同化したいという愛情の結果であって、狭苦しい批判や批難や浅薄なからかいとは別物だ。
和田誠の場合は作風への、クノーの場合は言葉への敬意が根っこにある。批評性と愛情と技術の結晶としてのパロディ、という認識が世の中全体で共有されるようになってほしい。
注:この感想は2005年頃のもので、自分が読んだのは朝日出版社から出ていた「文体練習」。その後、水声社のレーモン・クノー・コレクションや、国書刊行会のコミック版も出ている。
- 作者: マットマドン,Matt Madden,大久保譲
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2006/09
- メディア: 単行本
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