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「Gスピリッツ」 Vol.42 その2

鶴田や当時の全日について振り返る天龍のインタビューにはあちこちに鋭い指摘があり、また故人を貶めないような配慮が感じられて読み応えがあった。

 

Gスピリッツ Vol.42 (タツミムック)

Gスピリッツ Vol.42 (タツミムック)

 

 

俺のスタンスがちょっと落ち着いてきた時期に、馬場さんとスタン・ハンセンの試合をジャンボと並んで“馬場さん、どれだけボロボロにされるのかな?”って思いながら観ていたんだけど、馬場さんが勝ったんだよね。ジャンボと二人で尻を突き合ったのを憶えてるよ(苦笑) (p.22)

 

この試合は、84年7月31日のPWFヘビー級王座を馬場が奪回した一戦である。

 

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スモールパッケージホールドなどという、決め技として認めたくないような技で呆気なくカウント3を奪ってしまい、いま見直しても少々無理がある。

 

俺たちは“ジャイアント馬場という人が今までの名声を失うようなやられ方をするんじゃないか”という感じで観ていたから、“おいおい、勝っちゃったよ”っていうのが正直なところだったよ。あのハンセンを巧く凌いで、試合を形成して勝った馬場さんを観た時に、ジャンボは“勝てないよ、源ちゃん!馬場さんには”と言ったんだよね。思わず漏らした言葉だったと思うよ。 (p.22)

 

「~だよ。~だったよ。」という語尾が延々と続くので、かえって臨場感がある(他の音楽誌や映画誌のインタビューはもう少し手を加えているように思われる)。

こうして天龍の目に見えていた状況を知ることができるとは、あの当時を思えば夢のようである。周囲のレスラーにあまり本音を見せない鶴田と、「源ちゃん」と呼ばれる天龍が尻を突き合っている様子を想像すると微笑ましい。

その後、全日は馬場の引退を待たずに後進がうまく育って、まもなく鶴田と天龍の時代になる。

さらにその後で長州との対決もあるのだが、こちらは引き分けとはいえ、いずれも大技を出し合いの受け合いで、その間のじっくりした関節技の決め合いも白熱している。「ジャンボ鶴田最強説」の根拠になっている一戦である。

 

 

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ジャンボのレスリングは上手で、綺麗過ぎて…強過ぎて相手がいなかったんですよね。本当に強かった。ナチュラルな強さがあったから。長州と大阪城ホールで60分やったけど、長州はゼーゼー言っちゃって立てないんだもん。ジャンボは、その長州が立ってくるのを待ってるんだから。それだけの差があったんですよ。(p.36 元「全日本プロレス中継」プロデューサー原章のインタビューより)

 

 ところが、この試合を天龍は次のように見ている。

 

長州が初めてドロップキックをやるのも見たし、ジャーマンをやったりとか…いい試合をやろうと必死にもがいている長州を見て、何か可哀相だったよ。シャカリキになって向かっていく長州が小物に見えちゃって、そういうのをジャンボが見せようとしているのかと思って嫌になっちゃったね。(中略)

自分を大きく見せようとするジャンボに逆にちっぽけさを感じたよ。あの負けん気の強い長州が“もう一回”って言わなかったでしょ。それがすべてを物語っていると思うよ。ジャンボも“もう一回”と言わなかったってことは、お互いの中に何かがあったんですよ(p.25)

 

何と、いい勝負ではなくて「鶴田>可哀相な長州」という関係だったという話で、その鶴田には「ちっぽけさ」を感じたという。

自分はこれまで「天龍」という人がここまで冷めた視線を持っている人だとは思っていなかった。さりげなく、そして鋭く深い数々の分析には感銘を受けたので、もっと読んでみたい。