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読んだ本の感想やメモなど

「死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々(1)」阿部共実

略して「死に日々」と呼ばれる本書は、1巻の感想を書こうと思っているうちに2巻が出てしまった。

 

 

 「死に日々」は作者の出世作である「空が灰色だから」と同じ傾向の短編集である。

よって内容的には「続・空が灰色だから」ともいえる。いずれの作品集にも長編にも言えることだが、どこかしらギャグ漫画的なノリと、ほとんどホラーかと思われるようなシリアスで厳しい壮絶路線とが混在している。

そういう意味では楳図かずおチックでもあり、笑いと恐怖は紙一重であるという事実を再確認できる。

例えば本書中、第九話「おねがいだから死んでくれ」をサンプルにすれば、その辺りが説明しやすくなるかもしれない。

この話は見方によっては悲劇であり、絶望的な転落の話である。同時に、見方によっては「こんな変な奴がいたんだぜ」という笑い話でしかないことも明らかである。

また、ここからが阿部共実の本領発揮というか、阿部共実的な部分でもあるのだが(時系列的には最も前の部分になる)最後のパートだけを読むと、これは前向きで明るい希望の話ですらある。

かの有名な「まんが道」や「バクマン。」も、描かれなかった前日譚の中には、この第九話の朝や、あるいは昼の出来事によく似た日々があったのではないかと思わせるほどの説得力があり、明るいのに悲しく、不吉なのに甘い、複雑な味わいの悲喜劇的な余韻が残る。

 

 

集中、最もコメディ的なユーモアを持っているのは第五話「え」、第八話「アルティメット佐々木27」の二作であろう。

特に「え」はツッコミもボケも自然にエスカレートする漫才のようで、読者を選ばない敷居の低さ、読みやすさがある。