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読んだ本の感想やメモなど

「花ざかりの森・憂国」三島由紀夫

2015年は三島由紀夫の生誕90周年で、没後45年にあたる。昭和と満年齢が同じなので、45年前の昭和45年に45歳で自決したという区切りの良さがある割には、さほど盛り上がりを感じさせない。普通の書店で「三島由紀夫フェア」をやっているかというと、全く気配すらなく静かなものである。

「ユーモアのある本」としては何か選べないかと考えたのだが、長編の「美しい星」「命売ります」「夏子の冒険」などを挙げるよりは短篇の方がよさそうに思う。

 

花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

 

 

たとえば自選短編集「花ざかりの森・憂国」所収の「卵」はどうか。

解説で著者自身が以下のように説明している。

 

 (前略)「卵」は、かつてただ一人の批評家にも読者にもみとめられたことのない作であるが、ポオのファルスを模したこの珍品は、私の偏愛の対象となっている。(中略)私の狙いは風刺を越えたノンセンスにあって、私の筆はめったにこういう「純粋なばからしさ」の高みまで達することがない。 

 

私がこの小説を知ったのは、おそらく、かんべむさし(というSF作家)のエッセーで褒められているのを読んだのが切っ掛けだった。

当時読んでみて変な小説だなと思ったが、いま読み返してみると「ポオのファルス」を意識した作品としては安吾の「風博士」の方が上手いし、変人が数人出てくる序盤のエピソードは太宰治の「ロマネスク」の方が上手いし、中終盤の裁判のあたりは「不思議の国のアリス」を意識しているように見えるものの、ギクシャクしている。

そしてやはり、成功した作品とは言い難い。もし三島由紀夫が書いたと教えられずに読んだら大傑作と言いたくなるのかもしれないが、とにかく昔も今も「珍品」というのが妥当な評価かと思われる。