本書は元々、はてなブログ「ナナオクプリーズ」で発表されていた文章がまとめられて書籍化されたものである。
私はこの本を書店で買おうと思っているうちに買いそびれてしまい、はてなが本書をプレゼントするというキャンペーンに当選したので結局はタダで貰えた。
その上、今回は自分のブログで紹介しようという、はてな尽くしの一冊である。
内容はタイトルの通りで、矢沢永吉の口調の模写による「桃太郎」ほか、様々な文章スタイルの模倣によって「桃太郎」と「走れメロス」が変奏される。
永ちゃん口調の他に何があるかというと、「死語」「一発ギャグ」「J−POPによくある歌詞」などで、物真似芸人の行う形態模写や「あるある」に近いノリである。
本書の中で、小説家の文体模写が一例もないのは和田誠の「倫敦巴里」や清水義範の作品を思うと隔世の感がある。これは作者の資質や嗜好の問題ではなく、単純に固有の文体を持った作家が減ったためではないかと思う。
村上龍、村上春樹あたりの世代を最後に「文体」は消えてしまって、あとは良くも悪くも互換可能な、無味無臭の文章が横行する、阿部和重と伊坂幸太郎で合作できることを誰も不思議と思わないような世の中になってしまった。
最後に蛇足だが「星井七億」は「欲しい」「七億」という駄洒落で、こういうセンスの書き手もすっかり少なくなった。