めちゃくちゃブックス

読んだ本の感想やメモなど

「おばけのてんぷら」せなけいこ

「めがねうさぎシリーズ」中の一作が「おばけのてんぷら」で、全体的にユーモラスなのだが、それ以上にどことなくピントが狂っている、たくまざるユーモアの見られる作品である。

 

おばけのてんぷら (絵本のひろば 29)

おばけのてんぷら (絵本のひろば 29)

 

 

冒頭は、うさこちゃんがこねこくんのおべんとうに入っていたてんぷらに魅力を感じる場面である。しかし、なぜこねこくんが一人でおべんとうを食べているのか、よくわからない。おべんとうはいわゆる日の丸弁当で、梅干しとご飯にてんぷらである。

「おいものてんぷらなら たべてもいいけど、 おさかなのてんぷら とっちゃいやだよ」

という台詞があるが、おべんとうとして少々不自然である。

あまり絵本に難癖をつけても仕方が無いのだが、その後でうさこちゃんはおこづかいをみんな使って、自力でてんぷらを揚げようとする。買ったものは「にんじん」「おいも」「かぼちゃ」「たまねぎ」「こむぎこ」「あぶら」「たまご」で、まるで主婦の買い物のようだが、こねこくんのおかあさんの持っている料理の本を参考に行動しているという流れなので、うさこちゃんは子供なのである。

子供のうさこちゃんは包丁で野菜を切って、衣をつけて油で揚げる。ここも現代の作品なら安全に注意しろとか、親と一緒でないとまずいとか、いかにもクレームがきそうな場面でハラハラする。普通の絵本作家なら「うさこちゃんは、ママにてんぷらを揚げてもらいました」とするべき場面ではないかと思うのだが、作者がその点をまるで問題視していない、というか天然に近い堂々とした感じが伝わってくる。その後、揚げたそばから食べ始めるというのも子どもの行為らしくない、どちらかというと若い主婦のような感覚である。

この後でやっと「おばけ」が登場して絵本っぽい話になってくるのだが、全体的にひねった感じがなく、起こっていることがみな自然であるように思えて、すんなり最後まで読めてしまう。のびのびとした、大らかなユーモアに満ちている絵本である。